子どもと大人とでは、リスニング力の身に付け方が違う!

子どもと大人とでは、リスニング力の身に付け方が違う!

残念ながら大人は「聞き流し」するだけでは、なかなか英語を話せるようにはなりません。

一方、子どもは「聞き流し」をするだけで、比較的かんたんに英語が習得できるといわれています。特に0歳から10歳前後までは英語を聞き流すことで、無意識のうちに自然と身に付けることができます。

なぜ同じ「聞き流し」をしても、大人と子どもでは英語の習得に違いがあるのでしょうか? その原因は「脳のメカニズム」にあります。

人間の脳は、成長するにつれて機能が変化していきます。脳の中には、「ウエルニッケ言語野」という、「言語を聞き分ける」部位があります。ウエルニッケ言語野は成長にともない、その機能が変化します。10歳前後までに子どもは、耳から言語を聞き続けるだけでウエルニッケ言語野が柔軟に働き、自然に言葉を聞き分け、理解できるようになります。しかし、大人になると「聞き流す」だけではなく、「意識的に学習しながら聞く」ことをやっていかないと、ウエルニッケ言語野は十分に働きません。このため、0歳から10歳前後までの子どもは大人に比べて柔軟に言語を聞き分けることができ、言語の習得も早いのです。

脳のメカニズムを理解すると、子どもには子どもの脳に合わせた習得方法、大人には大人の脳に合わせた習得方法あることがわかります。

Tアンダーソン博士

今回は、脳のメカニズムに注目し、子どもと大人とでは違う言語習得の方法をお伝えしたいと思います。

目次

言語を聞き分け、理解する脳のメカニズム

冒頭でもふれたように、脳の中には言語を理解することに深く関係する「ウエルニッケ言語野」という場所があります。耳から言語が聞こえると、ウエルニッケ言語野がすぐに反応し、「それが日本語なのか、英語なのか、それとも知らない言語なのか」を瞬時に判断(聞き分け)します。

この時、聞き分けができるかどうかは、ウエルニッケ言語野の中に「その言葉を理解できる場所」が存在しているかどうかによります。

例えば、母国語である日本語が聞こえてくるとすぐに理解することができます。これは、私たちが今まで日本語に触れ続けてきたことにより、ウエルニッケ言語野の中に日本語を理解する場所(「日本語野」という)が形成されているからです。

それでは、フランス語はどうでしょうか。多くの人はフランス語を耳にしても、それを理解することができません。それどころか、フランス語なのか、イタリア語なのかの判断すらできないのではないでしょうか? これはウエルニッケ言語野の中にフランス語を理解する「フランス語野」が形成されていないことが原因です。

このように、耳から聞こえた言語を聞き分け、理解できるためにはウエルニッケ言語野の中に「その言葉を理解できる場所」が形成されていなければならないのです。

では、英語を聞いて理解できるようになるにはどのようにしたらよういのでしょうか?

答えは、英語を理解できる場所である「英語野」をウエルニッケの中に作り出すことなのです。

ウエルニッケ言語野

日本語と英語が両方とも話せるバイリンガルの場合、日本語を理解する「日本語野」と、英語を理解する「英語野」は2cmほど離れたところにそれぞれ独立して存在しています。

この独立した言語野のおかげで、それぞれの言語を混同することなく聞き分け、理解することができます。

しかし、ウエルニッケ言語野の中に「日本語野」だけしかない場合、英語と日本語を混同してしまい、うまく聞き分けることができません。

また、日本語、英語、スペイン語が話せるトリリンガルの場合、さらに3つ目の言語野である「スペイン語野」が独立し、このスペイン語野でスペイン語が理解されます。

つまり、すべての言語は同じ場所で認知されるのではなく、それぞれの言語ごとに「その言語を理解する専用の場所(各言語野)」があるということです。

このように、ウエルニッケ言語野の中に、各言語野を独立させることで、人間は言語を聞き分け、理解することができるのです。

成長と共に「脳の働き」が変化する

上記のように、英語を聞き分け、理解できるようになるには、ウエルニッケ言語野の中に英語野を独立して形成できれば良いということがわかります。しかし、英語野を形成するために必要な方法は、子どもと大人とでは全く異なります。

諸説ありますが、人間の脳は、10歳前後を境に言語を耳から聞くだけで聞き分けることできる子どもの脳から、言語を意識的に学習しないと聞き分けることができない大人の脳へと変化していきます。

10歳前後までの子どもは、言語を楽しく聞いたり歌ったり、また遊んだりしながら体験的に自然と習得していきます。このため、耳から言語を聞き続けるだけで自然に言語を聞き分け、理解できるようになります。つまり、「聞く」という体験を繰り返すだけで自然と言語野が形成されるのです。

このことは、小さい子供が日本語を話し始めるまでの過程を見てみるとよくわかります。

ほとんどの子どもは1歳から2歳ぐらいで言葉を話し始めます。これは、お家の人が日本語で話しかけたり、歌ったり、本を読んだりすることで、日本語を聞き続けているからです。

しかし、言葉を話し始める前から、子どもは親の話していることが理解できています。

我が家の一番下の子は、話し始めるのが少し遅く、2歳3か月になっても「パンマン(アンパンマン)」とか「にゅうにゅう(牛乳)」などといった単語しか話しませんでした。

しかし、私が出かける準備をしているとき「あとは…、水筒を用意すれば準備オッケーかな…」と独り言をブツブツ言っていると、単語しか話さない一番下の子が、真っ先に水筒を持ってきてくれます。

つまり、子どもは話すことはできなくても、耳から聞いた言葉をきちんと理解しているのです。これは、特別意識的に学ぶということではなく、日本語という環境の中で、日常的に繰り返し「聞き流す」ことにより、自然に日本語野が形成されているということです。

英語もこれと同じです。子どもは楽しく英語に触れ続けることができれば、「英語を聞く」という体験の繰りかえしにより英語を聞き分け、理解するための「英語野」を自然と作ることができます。バイリンガルと同じように日本語野とは別の場所に、独立した英語野が形成されます。

しかし、10歳前後を境に、ただ聞き流すだけでは「英語野」を自然に作ることができなくなってしまいます。

脳の機能が変化するからです。

10歳前後になると、徐々に脳が「大人」になっていきます。子どもの脳は「体験的に自然と習得」するのに対し、大人の脳は「論理的に学習して習得」しようとします。

大人の脳は、「頭で理解できないこと」を何度も繰り返し聞いても、それを理解することができません。このため、ただ聞くだけではなく、「それはどういう意味なのか?」を学ぶ必要があります。大人になると「読めない文章は聞きとれない」「書けない文章は話せない」のです。つまり、大人の場合、聞き流すよりも前に、聞くための下準備として単語や文法を学習することが必要になります。

また、英語を聞くことも子供とは違う学習が必要です。「ただ聞く」のではなく、「聞き取りながら書く」ことや、「英語の音声に合わせてつぶやく」など、ただ聞くだけではなく、聞き取るための意識的な働きかけを同時にすることが効果的です。これらを繰り返すことにより英語野が形成され、耳から入った英語を聞き分け、理解できるようになります。

このように10歳前後を境に脳の機能が変化し、言語の習得方法が大きく変わります。

子どもは「聞き流し」、大人は「意識的学習法」で英語を習得できる

10歳前後までは、「英語を聞くという体験をくり返す」ことによって無意識のうちに、自然にウエルニッケ言語野の中に英語野が形成され、英語を聞き取り、理解ですることができるようになっていきます。

では、どのくらいの頻度で英語に触れていると良いのでしょうか。

幼少期に、英語と日本語をしっかりと習得するためには、週1度の英会話教室に通うだけでは少なすぎます。毎日最低、15分は家で英語に触れる機会を作る必要があります。

子どもがリラックスして過ごせる家庭で、英語の歌や物語のCD・DVDや英語での話しかけにより、親子一緒に繰り返し英語で遊ぶ時間を作りましょう。

まず、日ごろ日本語の童謡や歌をBGMで使っているのであれば、そこに英語の童謡や歌もプラスしてください。

童謡は英語で「Mother Goose(マザー・グース)」や「Nursery Rhymes(ナーサリーライムズ)」といいます。よく表紙に「ガチョウのおばさんが描かれたCDや教材」や「卵のおじさん(Humpty Dumpty:ハンプティーダンプティー)が描かれたCDや教材」が売っています。もちろん、「ガチョウのおばさん」や「卵のおじさん」以外の絵のものもあります

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また、英語の物語CDやDVDなどの教材も効果的です。それを15分から、長くても1時間までかけ流すのです。

わたしは、三日坊主どころか一日坊主で終わってしまうぐらいモノグサですが、この「プレーヤーに電源を入れて再生ボタンを押す」ことだけは日課とうして続けることができています。1日たった15分ですが、気が付くと15分が1時間になっていて、1か月にすると、30時間もの時間を英語に触れさせることができます。

これは、毎回違うCDでなくても構いません。毎回違ったものよりも、むしろ同じCDをしばらくの間、毎日継続するということが効果的です。こうすることでウエルニッケ言語野が刺激され、日常の生活の中で自然に英語を聞き分ける英語野が形成されていきます。英語を聞き分ける耳をつくることで、次の「発話」つまり「話す」ということにつながっていきます。

また、より効果的に英語野を作るには、CDやDVDをBGMのようにかけ流す時間とは別に、親も歌ったり踊ったり、物語を口ずさんだりといった「一緒に参加」をすることが大切です。これは、聴覚的な働きかけには、機械の発する音を聞き流すよりも効果的なのは「実際目の前にいる人の発話を聞くことだ」という研究結果に基づいたものです。

しかし、無理は禁物です!親は子どものペースに合わせ、子どもを応援する立場にいてください。子どもが嫌がるときは、必ず休んでください。

そうでないと、英語そのものが嫌いになってしまう可能性があります。

実は、うちの子もその一人でした。わたしは、「英語野」を何とかして、わが子に作ってあげたいという一心で、CDやDVDを1日も何時間もかけ流しをする時期がありました。しかし、子どもは聞きなれない英語を何時間も聞かされたり、観させられたりしていたので、ストレスを感じていたようです。「ママ、もう英語のCD聞きたくない!」と英語を嫌いになりそうな時期がありました。

嫌がるときは、無理にはやらせないほうが良いと思い、すぐにCDやDVDなどを止めました。その後も、子どものペースに合わせながら、無理のない範囲で英語に触れさせる時間を作りました。

無理をさせなかったことが功を奏したのか、今では英語を拒否することはなくなりました。それどころか、英語を身に付けることの楽しさや必要性を理解してくれるようになりました。

お気に入りの英語の物語CDを自らかけ、音に合わせて口ずさんでいます。

このように、子どもが遊びながら、無理なく楽しく踊ったり歌ったりを繰り返すことで、自然に英語野を作り上げていくことができるのです。

一方、大人の脳になると単語や文法などを習得しながら「意識して聞く」という方法で英語を習得していきます。

前述のとおり、大人になると脳の機能が変化して、ただ聞き流すだけでは英語野を形成することができなくなります。

自ら意識的に学習する必要があります。大人は「意味が分からない音」をいくら聞き続けても、それを言語として理解することができないのです。このため、聞くための下準備として単語や文法を学習し、語彙力、文法力を高める必要があります。また、英文を読み解くための「英文読解」も必要です。一言でいうと、バンバン学習することです。

これらの下準備をしたうえで、英語を聞き、「聞きながら、それを紙に書きだす」や、「聞きながら、それを真似して口に出す」など意識的な学習が効果的です。これらを繰り返すことで英語野が形成され、耳から入った英語を聞き分けることができるようになります。

いかがでしょうか。「子どもの脳」と「大人の脳」の違いによる習得方法が分かったかと思います。

この脳のメカニズムの違いと、習得方法の違いを十分に知った上で、リスニングの力を身に付けていくと良いでしょう。

しかし、英語を習慣的に「聞く」環境づくりができない人が多いのではないでしょうか?わたしもそのひとりです。

ついつい忘れてしまったり、めんどくさくなったりして「思っていても実行できない」場合もあります。

そんな時は、「子ども向けオンライン英会話」を活用すると良いと思います。

「子ども向けオンライン英会話」というのは、インターネットで受ける英語の格安レッスンです。

フィリピンやその他、世界の先生たちとオンラインで英会話が楽しめるというもので、大体25分で1レッスンのところが多く、ワンレッスン数百円というところもあります。その運営会社にもよりますが、自分のレッスンは自分で組み立てて、基本的に好きなことを学べるように親などがカスタマイズすることができます。

その利便性を利用して、子どもに英語の「音」に触れ合う機会を与え、外国人講師と触れ合わせて「生の英語」を身をもって体験させることができます。

オンライン英会話で英語環境をスケジュール化することで、「ついつい」や「うっかり」をなくして、習慣的に英語を聞かせる環境を作ることができます。つまり、レッスンの予約をしてそれをしっかりスマホのスケジュール管理や、手帳に書き込んでおくというものです。

最後に、これまで、「子どもの」英語リスニング環境だったり、外国人と触れる機会づくりの話をしてきましたが、ここで一つわたしからの提案があります。

子どもの英語習得を応援する立場でもある親も、一緒に英語を習得してはいかがでしょうか?このページでもお伝えしたように、子どもと大人とでは英語を習得する方法が違います。

しかし、英語を身に付ける努力をする、いや、「努力をする姿を見せる」ことがお子さんの言語習得へのいい刺激になることに間違いありません!

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著者について

河内咲子 administrator

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